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平成
18年(行コ)第180号 損害賠償請求上告受理事件

申立人 W他1名 相手方 小川町長

 

平成181120

 

上告理由書

 

最高裁判所御中

 

上告人訴訟代理人  ×××

 

第1、上告の理由要旨

1、事案の概要

本訴は、小川町長が、関係市町村長と共に平成173月までの合併特例法の期限までの合併を目指すために、法の定めのない「事実上の協議会」を設置し、小川町職員を派遣し、その給与等を小川町庫から支出したことの違憲性を問うものである。

原判決は、市町村合併は自治法215項(以下、法という)による事務であり、本件任意合併協議会事務は小川町の事務であると判示している。

しかし法215項における「組織及び運営の合理化」の要請と「規模の適正化」の要請は、次元が異なるものである。「組織及び運営の合理化」は広域行政活動などを手段とし、自治体の経常の行政活動であるが、市町村合併は「規模の適正化」に関わる手段であり、非経常の行政活動である。であるからこそ、合併特例法が制定されている。合併特例法に定めのない合併に関わる事務協議を行う場合には、憲法92条に定める地方自治の本旨に立ち戻る必要がある。

原判決は両要請を同次元のものとして判断している。そのため、原判決には次の違憲がある。

即ち、本件任意合併協議会を自治体の経常事務の一環と解したために、合併と広域行政を混同し、合併の事務としての本質を誤った。統治の再編成という自治体の存否に係る非経常的な事柄は、代表者のみの判断で行うべきではなく、直接政治によって、判断することが憲法92条に要請される手続きであるが、この関係についての認識を欠落させた判示をしている。即ち、原判決は憲法92条に違背している。

 

2、原判決の要旨

 原判決は、市町村合併と広域行政を混同し、本件任意合併協議会は、東松山市役所においてその事務が遂行されたが、小川町の事務を処理していると認められるため、小川町の事務であり、職員給与等は小川町事務執行の対価として適法に予算議決されていると判示し、憲法92条から直ちに合併に関する諸種の事柄について住民投票をもって決しなければならないとする解釈を導くことはできず、合併に関する研究等について住民投票を経なかったからといって憲法92条に反するということはできないと、控訴を棄却した。

 

3、本訴の論点

 (1)本件任意合併協議会設置の意味と原判決の判断

比企地域任意合併協議会は、8市町村の合併を推進するため、8市町村の合併枠による新市構想策定のための予備的な協議をおこない、後続して法定合併協議会設置を予定していた。法の拘束なしで設置できる「事実上の協議会」の設置は、協議の事柄の本質により自治権を侵害する。本件任意合併協議会は、8市町村を1自治体に集権化する統治の再編成を進めることが目的であり、自治体の経常的事務ではない。

上告人らは統治の再編成にかかる事務は、自治体の非経常的臨時的な事務であり、それを執行するには法の定めにない「事実上の協議会」で行う場合であっても、住民による政策選択の合意決定に基づいて行うことが憲法の要請する「地方自治の本旨」に適うとの司法判断を求めたものである。

所定の住民合意手続きの適法判断については、別記上告受理申立理由書において言及する。

 

 (2)法215項の定める行政活動の意義

   原判決は、法215項において他の地方公共団体に協力を求めて規模の適正化を図ることが定められているので、市町村合併に係る本件任意合併協議会は、直ちに小川町の事務にあたるとの判断をしている。

   法215項の「規模の適正化」は統治活動としての行政活動の規模の適正化を意味し(ここに統治とは一定の区域の住民社会の統合を図る行為を言い、そのための組織を統治構造という。尚本項は、前項が統治活動の目的を定めるに対し、統治手段について定めたもので、統治目的により適した統治構造の改善改革を課したものである)、規模の適正化は合併によって図られる。これに対し広域行政は運営合理化のための手法で、自治体の事務としての意義と次元を異にする概念である。

   広域行政区域による行政活動は、現行の市町村の存続を前提として公共の福祉の増進の効率化をはかるための事務概念であるが、市町村合併は直接公共の福祉を対象とせず、現行市町村の統治構造や統治能力を問い、これを廃止し、あらたな自治体を編成する事務ないし活動を指す概念である。

   公共の福祉増進を目的とする経常的な活動と市町村の廃止統合を目的とする非経常臨時の活動は、事務としての本質的性格が異なり、従って立法政策としても特例法が設けられている。

原判決は、統治機構の再編成を、地方公共団体の広域行政区域の行政活動の経常的事務として同視し、両概念認識に関する混乱を露呈している。

 

(3)本件任意合併協議会設置にかかる憲法上の要請

統治の再編成という自治体の存否にかかる政策は、自治体の経常的な行政活動ではなく、非経常的臨時的な行政活動と位置づけなくてはならない。

市町村合併にかかる事務は、非経常的な行政活動であるため、立法政策的にも合併特例法等の法令が設けられている。従って同法及び法2522から同6に拘束されない「事実上の協議会」を法定協議会設置の後続設置を予定して市町村合併を進めるためには、憲法92条に定める「地方自治の本旨」に立ち戻り、直接民主政治による住民合意で政策選択の決定をすることが憲法上の要請である。

 

 

第2、憲法違反の理由

1、理由不備について

(1)原判決の判示について

本訴は、統治の再編成である市町村合併の政策選択を、長の判断のみで行うことが、憲法の要請する「地方自治の本旨」に適うか否かの司法判断を求めている事案である。

しかし、原判決は、市町村合併が統治の再編成であり、自治体にとっての最重要課題であること、統治主体は住民であり、住民は統治構造の変更は代表に付託していないことの理解が欠如している。長の専権によって統治の再編成の政策選択に着手しても、憲法の要請する「地方自治の本旨」に反しないとする判断の理由は、任意合併協議会の設置手続については具体的な定めがなく、各市町村の適宜の処理にゆだねられていること、又、市町村合併に関する協議等について住民投票を要するとの趣旨は個別法にも定めがないから違憲ではないいうところにあるが、その判示は、他の住民合意(議決)も必要でないとの判断に通じる結果となる。このように憲法92条からただちに合併に関する諸種の事柄について住民投票を以って決しなければならないとする解釈を導くことができないとの判断の理由は消極的に示されるのみで積極的根拠については、全く判示がない。

 

(2)「事実上の協議会」設置の合憲性について

事実上の協議会については、民主性を損なう病理的側面が強いことが指摘されているが、その協議の事柄の本質によって、設置の合憲性の判断が必要なことは上記のとおりである。

平成の市町村合併が国の政策として推進され、合併特例法の起債と職員の身分の優遇の誘導措置も講じられたため、その期限に間に合わせるために、研究会、任意合併協議会、合併推進協議会等のさまざまな名称で、事実上の協議会が設置され、合併協議開始の既成事実が形成された。

事実上の協議会の多用は、@規約の確定の協議に議会議決が不要であること、A協議会参加者として地方公共団体以外のものが加入できることなどの簡便さが理由であるが、そこがまさに住民自治を掘り崩す病理的側面であり、それ故に事実上の協議会設置にあたっては、@協議会の設置及び廃止に、関係地方公共団体の自治の尊重ができるか、普通地方公共団体の長の判断が、国家的関与によって地方自治が希薄化する恐れがないか、A協議会の民主的運営が保障できるか、B協議会の設置が関係地方公共団体のサービスの向上につながるか、C協議会設置によって関係地方公共団体の行政運営の民主性をそこなわないかを検討する必要がある。又、協議の事柄の重大性によって、設置の合憲性の判断が必要である。

比企地域任意合併協議会は、平成173月の合併特例法の期限に間に合わせるために、関係8市町村長の協議により平成1533日に設置され、小川町は、議会の予算議決なく、長に権限付与されていない予算外事務執行で運営に参加し、結局のところ同年521日に解散された。この予算外事務執行はの議会の議決権侵害の違法にも該当する。

 原判決の判断は、市町村合併に関して多くの事実上の協議会が設置された事例から、長に行政組織権限があり、それをいつどのように行なうかについては長の自由であるという考えかたに立ち、又、長が、自治体事務を共同処理するか、共同処理するとして、どの職務のどのような管理執行について、どこの普通地方公共団体と協議するかは、長の「自由」であるとする考えかたに立って、上告人らの法令違反の指摘の主張を斥け、被上告人の比企地域任意合併協議会の事務は小川町の事務であるとする陳述を認容したにすぎず、事実上の協議会について、個別具体的な場合について綿密に判断したものと見ることはできない。

 

(3)合併に係る事実上の協議会の本質 

比企地域任意合併協議会の事務は、合併に際し構成市町村に生じる様々な問題についての事前準備、例えば構成市町村の事務の処理方式の相違点、税の賦課徴収についての税率の違い、コンピューターの処理システムの違いなど、相互の事務事業をすり合わせ、新市建設計画策定に資せるための調整と統合を図る協議であり、原判決の判示するような一般的ないしは総論的市町村合併の研究ではない。即ち法定協議会設置を前提とし、法定協議会において予定される事務の統合的執行の承諾を導く予備的作業に着手していたのである。平成の市町村合併では、数多くの事実上の協議会が設置されたが、法定協議会設置に先行して実質的議論を進め、既成事実を形成していく事例が少なくないのが実態である。  

合併枠を特定し3ヵ月後に法定協議会設置を前提とした本件任意合併協議会の事務は、もはや抽象的、一般的な市町村合併の調査事務ではなく、統治の再編成に着手したものである。

 

(4)長の専権による協議会設置が合憲であるとする理由の不備

市町村合併にかかる自治体間の手続き、自治体住民と長の手続きは、合併特例法と憲法に定めがあるのみである。

市町村合併に係る事実上の協議会の設置は、自治体の存否に係る政策選択であるため、法治主義と地方自治の尊重の基本精神を重んじ、住民の直接の意思表明による設置が必要であるが、比企地域任意合併協議会設置を長の専権で同意したことは、後述するように現代代表制の立場からは容認されない。

しかし、原判決には、右の法律及び憲法に基づき、統治の再編成に係る事実上の協議会設置が長の専権に属すことを示すに足る積極的理由の提示は遂になされていない。

 

2、憲法違反

(1)統治の再編成

統治の主体は、国においては、国民が政府・国会に信託し、地方においては、住民が長、議会に信託している。政府・国会や長・議会は統治権の所有者ではなく、主権者としてそれを所有する国民・住民から憲法を通じ付託された権限を行使する機関である(憲法前文)。合併は統治の直接の行為ではなく統治主体の再編成であるから、統治主体の所有者たる住民が再編成され、その統治権行使の仕組みである長・議会その他諸々の機関からなる統治機構が再編成されることになる。この住民による付託と長・議会の権限の行使を統治機構と呼ぶならば、合併はこれまで存在した各市町村の統治機構を解体し、存在しなかった新たな統治機構を創造することである。

したがって新たな統治構造によって統治機構運営の効率化やコストの合理化が図られたとしても、住民の統治権行使が妨げられ付託の効果が低下させられる場合には、その再編成は地方自治の充実には無意味になる。

各自治体のそれぞれの歴史の下にある統治構造と福祉の共有によるアイデンティティは均一ではない。新たに創造される自治体(新市)は各自治体毎に格差があり、再編成によって受ける利便・利益に関する背反や対立は、新市との間だけでなく各構成自治体相互の間にも生じ複雑なものとなる。しかも現代代表制の統治機能は充全であるわけではなく、新市においてはその期待や保障はますます遠のくことが予想されている。

このような統治の再編成には、通常の事務以上に住民意思の反映が要求される。通常の自治体事務にも直接民主主義の側面があるが、統治の再編成には、必須不可欠的に要請される。

統治の再編成の政策選択に「半代表」(後述)として付託の有無が問われるが、その全くの無視は憲法前文「権力は代表が行使する」に反する。

住民は、通常の統治事務は代表に信託しているが、統治主体の再編成までは付託してはいない。比企地域任意合併協議会は、住民の付託の有無を無視した市町村長の協議のもとに設置され、憲法前文に反している。

法に定めのない「事実上の協議会」で、統治の再編成の政策を選択する場合、法に定めがないからこそ、直接民主政治による住民合意による決定が地方分権時代の憲法上の要請である。

長の専権による本件任意合併協議会設置に関し、法に定めがないから、住民投票をしないことが憲法92条に反しないという原判決は、法に定めのない事実上の協議会設置を長の専権とすることに通じ、地方分権時代に向かうに当たり改めて要請される「地方自治の本旨」に反する。

 

(2)地方自治における直接民主主議の位置づけ

憲法上の地方自治の制度をみると、間接民主主義を建前とするとはいえ自治運営には、住民発案、事務監査請求、解散、解職請求、住民訴訟などが認められ、特に住民総会規定(法94条・95条)は、注目される。

憲法41条に当る規定が地方自治にはなく、長・議会は最高機関とは格別定められず、地方特別法に関しては、住民投票が国会議決に優先されるものとされる。(憲法95条)。即ち、地方自治における直接民主主議の位置付けは本来極めて高い。

  

(3)自治の歴史

 現在の法制度に保障される直接民主主義に至るまでには、近代立憲主義型地方自治制度、外見的立憲主義型地方自治制度、現代市民主義型地方自治制度等といわれる歴史的変遷と展開がある。

 近代立憲主義型地方自治制度は近代市民革命により近代国家を形成した諸国(英・仏など)で取り入れられた制度であり、憲法で地方公共団体の存在は認めるが自治の内容は規定(保障)せず、議会の立法に白紙委任しており(純粋代表)、憲法の目的は国家の統一、国力の拡充にあった。

 外見的立憲主義型地方自治制度は日本、ドイツなど「上からの近代化」を強行した国家でとられ、立憲主義は導入されたが基本的人権、国民主権、権力分立などの視点は欠落していた。日本の明治憲法には、地方自治の規定そのものがなく法律で定められたが、府県は中央の機関、市町村はその末端機構であった。「天皇主権」に基づく極度の中央集権体制であった。

 現代市民主義型地方自治制度は、資本主義の発展、市民の成長、民主主義の進行により、日本、ドイツの場合には敗戦により、国家主権の憲法から国民主権の憲法へ転換した過程で確立した。 個人の尊厳と平等を前提に人権と自由の保障、人民主権に基づいた政治権力の規制、公共福祉確保を主眼とし、地方自治を具体的に規定し、住民自治、団体自治、地方政府としての地位を保障している。

1980年代以降ヨーロッパ連合(EU)の統合進展にも伴い、ヨーロッパ地方自治憲章を自治に関する多国間条約として採択し、民主主義の基礎として「全権限性原則」(法律上及び通念上中央の事務以外はすべて地方の権限)、「補完性原則」(市町村優先の事務配分)、「自主組織権」(住民発案、住民投票)、「自主財政権」(財源配分の保障)等が、地方自治の国際的スタンダードとして確立されている。

 

(4)現代市民憲法の国民主権と代表制

 上記に概観したように近代立憲主義憲法における国民主権(純粋代表)と現代市民憲法に立つ日本国憲法の国民主権(半代表)とは意味内容が異なる。前者では、制限選挙権による代表制であり、直接民主主義は存在しない。後者の現代市民憲法では個々人が国家を構成し(人民主権と国家契約説)、普通選挙による代表制であり、代表制は普通ではなく、直接制が本来の政治形態であり、代表制は直接制の代替物である。代表制はその原理に基く制度として法律の制約に服すべき存在であり、代表に白紙委任する「純粋代表」に対する「半代表」である。

 日本国憲法は、中央集権制温存で、国家主権から国民主権への改革は不徹底であった。高度成長のための中央集権統治が戦前よりもかえって拡大されたことは、行政改革の必要性が叫ばれる中で指摘された。現在、グローバル化経済に対抗するために、地方分権が叫ばれ、自治権を拡充するために国の政策として市町村の自主的な合併が進められている。

地方分権による自治権の拡充には、憲法95条、法94条、その他直接請求の諸制度を再認識する必要がある。その自治は直接民主主義の代替物としての間接民主主義「半代表」が位置づけられる。重要事項に関して間接代表の現行体制の長および議会にすべて決定権限があるというものではない。重要事項か一般事項かを見定めた上で、長、議会のみで執行できるものと住民の直接政治で決定すべきものとに振り分けるべきことが要請されているのである。

 原判決は、日本国憲法(人民主権)の明治憲法(nation主権)からの歴史的転換の理解、直接政治の原理的な必要性について無自覚であり、統治の再編成の主体は長ではなく、住民であることが忘れられている。

  

(5)市町村合併の政策選択への住民合意

 現代市民憲法では、政府と地方は並存の立場で統治権を分担し、両者の関係を規律する法律や制度は情勢に応じ制定・改廃されている。1980年代以降住民自治の方向で憲法が運用されつつある。まちづくり、生活、教育などあらゆる側面で直接民主主義が要請され実施されつつあるが、その全ての施策が直接民主制に付されなければ違憲であるとは必ずしもいえないであろう。

しかし、住民自治、団体自治の及ぶ人的、地理的区域を再構成する合併には、直接民主制による住民合意が憲法上の要請と解釈するものである。

   

(6)市町村合併にかかる直接民主主義の要請

憲法第8章を実現するための地方自治法は、「地方公共団体の民主的にして能率的な行政」の実現を目的としている。能率性の実現と民主性の実現は統一的に促進されなければならない。 

合併の特例に関する法律等は能率性の向上に重点をおいたものといえるが、それを均衡して充実を図るべき民主性のための「住民投票」は特定の場合以外一般的には法制化されていない。そのため、国民は自治体の立法を促す動き、市民として「住民自治」を求める動きをはじめている。市町村合併が行政の能率化のために促進されればされるほど住民は民主的自治の充実を求め、地方自治は新たな転換期、直接民主主義によって間接民主主義を補完し、「住民自治」の充実が志向される転換期を迎えている。

 住民投票立法フォーラム(http://direct.loops.jp/には地方自治法に基く住民投票条例の議案は、1979年から、2005106日までに1021条例議案が地方議会に上程されたことが公表されている。2001年の上尾市民の直接請求による「さいたま市との合併の是非を求める住民投票条例」議案以前は138議案でしかなかったがそれ以降急増した。そのうち市町村合併にかかわる住民投票条例議案は、813件になる。住民は、市町村合併という統治の再編成においては、直接政治による決定を求めている。

自治法の改正により国と地方の役割分担が明文規定されるに至った現在、法令による能率化に対しては、それに対応する民主化は自治体の例規で実現し、自治権を統合的に拡充することが求められている。

 

(7)統治主体による統治の再編成

上記(1)で記したように、統治の再編成による統治主体である住民への影響は大きい。統治の再編成の政策選択を、現代代表制の半代表に付託することは、もはや国民主権を否定する。自治体の長は、統治の再編成の政策選択にあたっては、市町村合併を問う住民投票をおこない、その過半数以上の賛同を得なければ、市町村合併の協議をすすめることはできない。比企地域任意合併協議会設置について、住民合意はない。そのため、憲法92条の要請する「地方自治の本旨」に反する。

 原判決の、法に住民投票が定められていないから、長の専権による本件任意合併協議会設置は憲法92条に反しないとの判断は、地方自治の変遷によって統治主体の権利の権限行使の主体が住民であることに権利が拡充している時代の判断ではなく、現代に対応した「地方自治の本旨」の理解ということはできない。

第3、まとめ

現代市民主義憲法下において、国民主権による憲法を頂点とする法令により、地方自治は、民主的で効率的で公正な統治には、事柄の重要性を判断し、直接民主政治で行うかそれを代替する半代表制に付託するかの判断が必要である。

統治の再編成の政策を「事実上の協議会」によって選択しても、住民投票に関し法に格別の定めはないから長の専権であり、憲法92条の「地方自治の本旨」に反しないという原判決は理由がなく、又、憲法92条に反している。

上告人らは最高裁判所に対し、市町村合併という統治の再編成の政策選択に関しては、統治主体たる住民は半代表制に付託していないこと、長の専権ではないこと、住民の直接意思表明による決定こそが手続上でも実質的内容においても憲法92条の要請であることが判示されるよう求める