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平成18年(行)第号 損害賠償請求上告受理事件

申立人 E外7名 相手方 東松山市長

 

平成18

 

 

上告受理申立理由書

 

最高裁判所 御中

 

上告受理申立人訴訟代理人  XXX

 

第1、上告受理申立の趣旨

原判決には、判断に際し、下記のような事実誤認及び法令の適用と解釈の誤りがある。よって、本件上告は受理決定がなされるべきである。

 

1、本件任意合併協議会の事務を東松山市の事務と認定する事実判断の誤り

2、上告人らの主張を任意合併協議会設置の違法にあると判断する事実関係の歪曲

3、地方自治法(以下、法とする)第21416項の法令解釈の誤り

4、法210条、211条、216条、232条の法令適用と解釈の間違い

5、地方公務員法35条の法令の適用と解釈の誤り

6、法第1条の趣旨に反する事実への判断の欠如

 

以下、詳述する。

 

第2、上告受理申立の理由

一、事実判断における誤り

1、本件任意合併協議会の事務即ち東松山市の事務(本件任意協議会と東松山市を同一の自治体)と判断する誤り

 上告人らの主張の中心は、本件任意合併協議会の団体としての独立性である。原判決はこの点に関しては上告人らの主張を歪曲なく受け止めている。しかし、任意合併協議会事務を東松山市の事務と判示する点は誤りである。東松山市の通常の事務に関する調査・審議は執行の付属機関によって行われる。それに対し、東松山市を廃止し(市町村の数を減少し)、他の市町村と共に別個の自治体を形成する事務は、調査・審議も他の市町村との共同の関係においてのみしか成立しない。即ち、内容的には、東松山市の事務とは異質な事務であり、東松山市とは別個独立の事務としてしか行うことはできない。実際、東松山市においても運用の実態は、町の執行付属機関の事務としては行われておらず、証拠として提示したWEB上の各市町村と同じである。それにもかかわらず、原判決は法2条15項や合併特例法などを根拠に市の事務と判示する。

  法律上自治体の事務と定められることと、運用上それを個々の自治体のみで行うか、他の主体を構成(一部事務組合や広域連合、協議会など)して行うかは、別の事柄であり、実務はその認識に基いて執行されているが、原判決はこの事実への認識が欠如している。

 本件任意合併協議会は、名称は、「東松山市」ではなく、「比企地域任意合併協議会」であり、その組織は、構成団体8市町村から出向する協議会委員と事務局からなる。協議会会長は、被上告人東松山市長であるが、協議会委員は、吉見町町長、吉見町議会議長、吉見町助役、吉見町担当職員、滑川町町長、滑川町議会議長、滑川町助役、滑川町担当職員、嵐山町長、嵐山町議会議長、嵐山町助役、嵐山町担当職員、小川町長、小川町議会議長、小川町助役、小川町担当職員、玉川村長、玉川村議会議長、玉川村助役、玉川村担当職員、都幾川村長、都幾川村議会議長、都幾川村助役、都幾川村職員、東秩父村長、東秩父村議会議長、東秩父村助役、東秩父村担当職員、東松山市議会議長、東松山市助役、東松山市担当職員である。平成15年3月中は、東松山市職員5名が事務局職員であり、本市政策推進課長西澤誠が事務局長であったが、同年4月から解散するまでの事務局職員には、8市町村の職員(東松山市職員4名、吉見町職員2名、小川町職員2名、嵐山町職員2名、滑川町職員2名、都幾川村職員1名、玉川村職員1名、東秩父村職員1名)が配属され、本市参与鈴木智を事務局長に任命した。東松山市役所地下に事務局を設置したが、その組織も名称も「東松山市」とは異なる事実がある。

 組織・名称が異なる「比企地域任意合併協議会」を原判決は、設置期間が3ヶ月であること、上告人らが積算した経費額が小額であること、比企地域任意合併協議会の事務が東松山市の事務の一環として認められることを理由として、「東松山市」と同一のものと判示する。しかし、それは司法判断として許し難い暴論である。

 

2、上告人らの主張を本件任意協議会設置の自治法違反にありと判断する誤り

  原判決は、上告人らが任意協議会設置の自治法違反ないし合併特例法違反を主張しているものとして、協議会に関して定めた自治法や合併特例法の趣旨を没却する特段の事情が認められない限り、任意協議会(事実上の協議会)設置も適法と判示する。しかし、上告人らは、事実上の協議会の「病理」的側面は指摘したが、設置の自治法違反は主張していない。

  事実上の協議会設置の「病理」的側面とは、執行による裁量が妥当な範囲を逸脱する場合の多いことを指す。上告人らは任意合併協議会参加後の運用に関し、恣意的に権限が行使され、その結果、財務規程、地方公務員法、職務専念義務免除条例等への違反が生じていることを指摘したのである。(設置の違法性については、別に憲法規定との関係で陳述する。)

  従って、原判決は、上告人らの主張は任意協議会設置の違法性にあったのではなく、その構成自治体としての事務運用に権限濫用の違法があることの指摘にあったのだという事実を正しく理解し、その指摘の適否について判断すべきであったのである。しかるにこの事実について、前者(設置の違法性)と後者(事務執行の権限濫用)を転倒して歪曲し、上告人らが主張しない事柄について判示し、主張した事柄(次頁に法律判断の誤りとして陳述する)については判断しないという重大な事実誤認を犯している。

 

二、法律判断の誤り

1、任意合併協議会の本質理解の誤り

 任意合併協議会は、各構成自治体の単独事務についての執行の付属機関ではなく、規約に基き設置された共通事務の実施主体としての独立性をもつ。本件任意合併協議会の性格はその運用の実態及び多くの事例の実態から帰納的に判断されねばならないが、市の単独事務であるとの判断に先入的に固執し、それに基いて演繹的に予算や給与の計上、執行も判断している。これは形式論的推論で、法律の適用に基く事実の適否の判断ではなく事実判断のための論理としては転倒している。

 

2、市町村合併と広域行政の概念の相違

  市町村合併は、統治権の内容の及ぶ範囲の総合的な変更を目的とするものであり、広域行政は、統治権の内容の限定された一部分について、能率的な行政活動を図るものである。

地方公共団体は、区域、住民、自治権をその構成要素とするが、市町村合併は法1条の2の1項の機能の及ぶ範囲たる法5条の区域、法10条の住民、法1条の2を変更する。これに対し広域行政は、区域、住民には変更がない。

いいかえれば、市町村合併は、自治体の構成要素を総合的に統合することにより、旧市町村に分担されていた権力を集中することを意味するに対し、広域行政は、行政活動の自治体の区域を越える広域的処理を意味するにすぎない。

  従って、合併枠を定め新市策定を目的とする本件任意合併協議会の事務を、東松山市が経常的に行っている事務として位置づけることはできず、事実上の協議会として取り扱うとしても法252条の2ないし252条の6の定めに従うよりは、合併特例法の趣旨に準ずべきと解される。

ところが、原判決は本件任意合併協議会は東松山市の事務の一環であり、東松山市の事務であると判示するだけで、なぜそういえるのかの法解釈、法論理は判示されていない。

上告人らは、実務上、総務省、埼玉県が市町村合併と広域行政を異なるものとして位置づけていることも論点として提示したが、原判決にはその点についての判断はない。又、WEB上に掲載されているすべての事実上の協議会はその事務を、構成自治体の事務として位置づけていないこと、即ち、構成自治体とは異なる財務会計で運営されていることを弁論したが、原判決は、論点をすり替えそれら事実上の協議会のほとんどは法定合併協議会設置を後続させることを前提としそれに先行して設置されており、総務省・埼玉県も、そのような場合の指針をしましたものと認定し本件任意合併協議会は、設置期間も短く、そのような場合に当たらず経費が不明な部分があっても違法性なないと判示している。合併と広域行政は同じか異なるか、異なるとすれば合併協議会は、事実上の協議会であっても異なる位置づけと運用が要求されるのではないかどうかについての法理論的根拠は遂に示されることなく終わっている。

 

3、法214項、16項の法令解釈の誤り

地方公共団体には、事務処理に関して、@住民の福祉の増進性と効率性(法214項)、A組織及び運営の合理化と規模の適正化(法215項)、B法令等の遵守(法216項・17項)の3つの責務がある。法215項については、別記上告理由書において言及する。

(1)法214項の法令解釈について 

原判決には、法214項の目的、最少経費最大効果による住民福祉増進について法令解釈の誤りがあり判断をしていない。最少経費最大効果の実績や成果の判定には対象の事務について費用対効果に関する事前の予測と事後の検証のいわゆる政策評価が必要である。本件任意合併協議会設置に関しては、その政策評価は行われず、平成173月までの合併特例法の有利な起債と職員の人事の特例に間に合わせるために、にわかに設置したものであり、東松山市職員5名を含め、8市町村で15名の職員を自治体とは異なる団体の事務に従事させたが、構成自治体の議会に法定協議会設置議案を提案しても否決されるという予測のもとに約3ヵ月後に解散した。

前述したように、自治体事務における法214項の評価は、事前評価と事後検証によって判断されるが、本件任意合併協議会経費を科目に組みこんだ予算の説明書はなく、本件任意合併協議会に関し費用対効果を問うことは全くなされておらず、法214項に反している。原判決にはその判断がない。

 

(2)法216項の解釈について

地方公共団体の事務処理は、個々の政策的内容について住民合意手続き(事前の議会の審議)を経ていなくとも、その予算については右の手続による議決を経ていなければならない。本件任意合併協議会の経費支弁は科目設定されておらず、予算議決を経ることなく支出された。つまり長に執行権限が附与されていなかったのであるからこの実施に関しては権限の濫用であり、議会の予算議決権にたいする侵害にさえあたる。

上告人らが調べた事実上の協議会経費は、協議会構成市町村の負担金として科目設定された説明書と共に予算議決され、適正に必要な手続きを経由している(甲48から107、及び甲127から130)。そのうち事実上の協議会負担金を含む予算議決が否決された例として、蕨市を例示した(85から92)。上告人らは、これら証拠上の事例に照らし、財務会計上の適正確保のため、事実上の協議会の経費を組み込んだ予算議決に基づき事務執行すべきであるに対し、本件任意合併協議会経費は、予算に科目設定なく、予算外の支出であり長の権限濫用であると共に議会の議決権侵害でもあると主張しているのである。

211条の2による説明書に本件任意合併協議会の経費を計上記載することなく従って当然予算議決なく、東松山市が本件任意合併協議会に参加することは長の予算外執行として、法216項に反することは明らかであるが、原判決には、その判断がない。

 

4、法210条、211条、216条、232条の法令解釈の誤り

原審での上告人らの主張を繰り返すが、最高裁判所には、地方自治体の財務会計の実務について正しい理解を求める。

 

(1)法210条、211条、216条、232条に定める予算の本質

210条について、青山学院教授中村芳昭は次のように記している。

 

本条は「一切の」収入・支出を「すべて」歳入・歳出予算に計上することを求め、これによって予算の全体を一元的に把握できるようにして議会ないしは住民の財政上の監督に資することを目的としているので、この原則の例外が認められるのには、よほどの強い事由が必要とされる。換言すると、本条は、232条の3,232条の4とともに予算に計上しない支出すなわち予算外支出を禁止していると解される。(別冊法学セミナーNO168)。

 

又、青山学院教授中村芳昭は、法211条について、下記のように記している。

長が調製する予算案の内容は法令の定める一定の原則に従って作成される。地方自治法208条2項、209条、210条、212条ないし218条などがあるほか、地方財政法にも調製されるべき予算の内容に関する一般的な規定がおかれている。すなわち、予算の編成に当たってはその経費・収入に関し、法令の定めと合理的な基準によりその経費を算定し、あらゆる資料に基づいて性格にその財源を確保しかつ経済の現実に即応してその収入を算定しなければならない。・・・・・・長が予算を議会に提出するときは、予算に関する説明書を合わせて提出しなければならないとされ、その説明書の内容(令144U、則15の2)は法定されている。・・・これらの説明書の提出の趣旨は予算案の議会での審議に資するためである。〔出典同上〕

 

232条について、広島大学教授田村和之は以下のように記している。

本条1項によれば、地方公共団体が支弁する経費は、@当該地方公共団体の事務、A当該地方公共団体の事務ではないが、法律又はこれに基く政令により当該地方公共団体の負担に属する経費である。(出典同上)

 

上記のとおり、地方自治法第9章の財務に関る定めは、法210条、211条、232条より、予算にはすべての自治体の経費が網羅され、住民(議会)に明確に説明されていなければならない。その上で予算の議決が求められている。

本件任意合併協議会経費については、法211条2項による説明書に東松山市の事務としても、東松山市の事務ではないが東松山市が負担する経費としても、科目に組み込まず予算議決している。長は予算に計上していない本件任意合併協議会事務に関する支出を執行しており、予算外支出であり、長の裁量権を考慮しても認容される余地は全くない。

上告人らはWEB上の事実上の協議会構成市町村は、構成市町村の予算に協議会を当該市町村とは別団体と位置づけ、そこへの参加に要する経費を負担金として科目設定し、議決していることを示し、本件任意合併協議会運営に関する長の右諸規定違反を主張したが、原判決は、東松山市の事務と本件任意合併協議会の事務は同一のものであり、しかも負担額が不明であることを理由として違法ではないと判示する。しかし、市の事務の一環であるから予算編入しても議決もなく支出しても違法ではないとすることは法210条、211条をこのうえなく歪曲した解釈である。

 

(2)原判決の予算区分主義に関する判断の欠如

原判決は、予算区分主義に関する判断が欠如している。法216条より、予算は歳入歳出の性質目的に従い款項に分類し科目区分されなければならない。科目設定のない経費に他の科目からの予算流用はできない。

東松山市単独事務のために計上された予算を他の独立団体のための支出に用いることは予算区分主義に反する違法支出である。本件任意合併協議会の事務に従事した職員の給与を、東松山市の事務に従事した対価として支出した長の行為は明らかに本条の権限逸脱であるが、原判決には、本件任意合併協議会予算が、適正に区分計上されているか否かに関し、一切言及がなく、判断の誤り以前の誤りがある。

 

(3)予算の実務

210条、211条、216条、232条より予算にはすべての経費を適正な区分に計上し、説明し、議決しなくては執行できない。

そのため、実務上、その年度中、経費支出が未明の場合、予算上は適正に科目設定のみ行い、経費1000円を計上し、事務事業の予定を明らかにして議決を求めるのが通常である。科目設定がある場合、各項間で予算の流用を行うことができる。科目設定のみを行う例として、東松山市平成15年度予算書(甲41)では、P913款 諸支出金 1項 普通財産取得費 1000円、3項 災害援護支援金貸付金1000円やP5212節 役務費 特定家庭用機器廃棄物手数料1000円、特定廃棄物運搬手数料1000円などを示すが、これが予算の一般的な実務処理である。科目が必要ない場合、その科目を廃止する。

上告人らは、他の事実上の協議会では規約に、経費支弁、職員の身分の位置づけが定められていること、予算に経費が負担金として組み込まれていることを陳述し、西東京市を構成している田無市・保谷市予算書・決算書(甲91〜103)、川口・蕨・戸田合併推進協議会構成市の蕨市予算書・決算書(甲8586879092)、さいたま市を構成している浦和市予算書(甲130)を証拠として提出した。

本件任意合併協議会の規約に経費について、各構成団体の平成14年度、15年度予算の歳出に関し、2款 総務費 1項 総務管理費 目 企画費 19節 負担金補助及び交付金として本件任意合併協議会負担金を科目設定した予算議決ある場合、予算額が1000円であろうとも、法2157号、216条、2202項より、本件任意合併協議会経費を 2款 総務費 1項総務管理費の各目、各節より、予算の流用が可能となる。

即ち、本件任意合併協議会の職務に従事した鈴木智他4名に相当する給与負担金部分についても、平成14、15年度東松山市予算の歳出の款「総務費」、項「総務管理費」、目「企画費」、節「給料」、「職員手当」「共済費」から流用支出しても違法性は問われない。

同様に、東松山市が本件任意合併協議会経費を負担金分担金として予算に科目設定していたなら、それを予算科目を流用し処理しても適法である。上告人らが、証拠として提出した他のWEB上のすべての事実上の協議会は、規約に経費支弁を定め、構成団体の予算に分担金を計上し、上記の地方自治体の財務会計上の所定の要件を充たしている。仮に規約に協議会の経費支弁の方法や、職員の身分の位置づけが定められていなかったとしても、各構成自治体は法210条他の財務規程に従い、予算にその分担金を組みこまなければならなかったであろう。

  しかし、原判決は、地方自治体の財務会計行為の実務について認識を欠如し、法210条、211条、216条、232条等の適用・解釈に誤った判断をしている。

 

5、地方公務員法35条の法令解釈の誤り

(1)原判決の司法判断放棄の判示

原判決は、協議会における東松山市職員の行う事務は、広域行政の一つである合併に関する調査・研究等であり、東松山市の職務に位置づけられるものであるので、東松山市の事務であり、職務命令によって本件任意合併協議会の事務に従事させたとしても、職務専念義務に反する措置であったとはいい難いため、地方公務員法35条に反するものではないという趣旨を判示している。

自治体の職員の職務は、その自治体の単独の事務であろうと、法定協議会であろうと、事実上の協議会であろうと、他の一部事務組合であろうとも、人事権が長にある場合、長の職務命令で職員の配属が決定される。上告人らは、自治法上、協議会に職員を派遣することができないが、実務上、任意合併協議会・法定協議会には、自治体から職員派遣しなければならず、その派遣を適法に行うため、職務専念義務免除条例に定めた上分担金措置を講じなければならないと主張しているのである。

それに対し、原判決は、派遣元自治体はこれらの職員派遣にかかる法令を無視してよいとの判断を示している。これは行政運用の適否についての司法判断を放棄したもので、本件任意合併協議会の職員を所属元の自治体の長の職務命令でその事務に従事させることは当然であるというのがその理由とされるのであるが、長が職員派遣の権限をもつということは本件任意合併協議会と東松山市とが同一の団体であることの法的根拠にもならず、本件任意合併協議会への職員派遣が、地方公務員法35条に反しない法的根拠にもならない。

 

(2)構成団体とは異なる団体である協議会

協議会は、協議会構成団体とは異なる組織であるため、事務管理も異なる。法定協議会においては、252条の4、1項、2項に基いて、名称、構成団体、事務管理、経費の支弁、職員の身分の位置づけ等を規約に定めることを規定している。上告らの調査した事実上の協議会は、法定協議会についての定めを準用し、その参加について負担金として科目に組み込んだ予算議決が行われている。

(3)構成団体とは異なる組織の事務に従事する職員の取り扱い

@協議会の事務に従事する職員の取り扱い

所属する自治体とは異なる団体の事務に従事する職員の給与や身分の取り扱いについては、法25217項に基く職員派遣、公益法人等への一般職員の地方公務員派遣等に関する法律に基く派遣、市町村の職務に専念する義務の特例に関する条例の適用の3通りの場合の規定が設けられている。

協議会は、地方公共団体ではなく、公益法人でもないため、その事務に従事する職員の給与や身分に関しては、市町村の職務専念義務免除条例に定めることが必要不可欠である。

A給与条例主義及び職務専念義務免除条例の適応違反への判断欠如

自治体の職員の給与は条例にもとづくことなく支給することはできず、東松山市の事務に従事しなかったものには職専免条例にもとづくことなく給与を直接支給することはできない。原判決は、給与支給についての条例の規定について判断をしていない。

すべての法定協議会及び上告人らの調査した事実上の協議会は、関係地方公共団体とは異なる別団体として、規約に名称を定め、経費支弁を定め、職員の身分の取り扱いを定め、職員給与の負担元を定めている。即ち、法定協議会、事実上の協議会共に、協議会規約に職員の給与、身分の取扱について定めることで、職務専念義務免除条例に係らしめ、地方公務員法35条との適合が図られているのである。

さらに規約に経費支弁の定めがあり各構成団体が任意合併協議会負担金を予算に適正に科目設定していれば、その事務に従事する職員の給与については、法2157号より、流用することができるので、特に予算科目として細区分しなくとも適法に支給できる。

上告人らは、職員給与を、2款 総務費 1項 総務管理費 6目 企画費 19節 負担金補助及び交付金で支出すべきであると主張する理由もそこにある。事実、ほとんどの任意合併協議会、すべての法定合併協議会の構成団体は、協議会事務に従事する職員の給与、身分の取り扱いに職務専念免除条例を適用する方法を講じている。

    原判決は、被上告人の適正とは解し難い主張を認容し、本件任意合併協議会の事務を東松山市事務であるとし、地方公務員法35条に反していないと判示する。更に上告人らの引用する事例に対してはそれらにおいても協議会事務局職員の費用分担者は構成自治体であり、そのことは協議会の事務即構成自治体の事務であることを示すものであると結論づけ、それらが適法に地方公務員法、職専免条例、自治法財務規程に基づいて実施されているかについては問う必要がないとの判断を示す。

上告人らは費用の支出者が地方公共団体であるが故に「法律による行政」の原則に基づくべきことを主張しているのであるが、右の判示はこの原則の遵守不要を説示するに等しく暴論と評されてもやむを得ない。

 

(4)協議会の事務を市の事務と同視する論理の矛盾

 原判決は、本件任意合併協議会の事務は東松山市の事務と認められるため、 

東松山市の2款総務費、1項総務管理費から、職員給与を支出することは、違法ではないと判示している。

しかし、本件任意合併協議会には、7町村の職員が事務に従事しており、それぞれの職員の派遣元自治体から給与が支出されているのであるから、本件任意合併協議会が、東松山市の事務の一環であるなら、同市は同市の事務に他の7町村の職員を従事させたという矛盾を生む。

そうではなく、他の7町村の職員は本件任意合併協議会の事務をそれぞれ各自の町村の事務として執行していたというのであるなら、同市の事務即ち7町村の事務ということになり、各自治体は独立性を失うといういっそう大きな矛盾を招く。

本件任意合併協議会は8市町村の共同の事務のため設けられた独立主体のものであり、そこにそれぞれ独立主体の市町村から職員が派遣されているものと解さなければその矛盾は解消しない。又、事実そうであるからこそ協議会の現実の運用も成り立っているのである。本件任意合併協議会の事務を東松山市の事務であるとする原判決は論理的破綻を曝け出しただけでなく本件任意合併協議会は市町村とは別個独立の事務主体であるとする上告人らの主張をかえって証明するものである。

 

6、原判決の法第1条の無視

本件任意合併協議会は、合併の可能性について抽象的に調査研究するのではなく、特定合併枠を前提として具体的に調整統合を図る目的で設置されている。本件任意合併協議会は、法定合併協議会設置を予定して実質的合併協議に事前着手していたことは明白である。本件任意合併協議会各関係市町村長は、合併特例法に定める起債や、職員身分の保障等の特例の働く期限に合致させることを目的に、平成1533日に設置し、必要ないし適正な法手続きをとることなく、本件任意合併協議会に職員を派遣し運営したのである。規約に経費負担も事務局職員の身分の取り扱いも明示されておらず、それらを各構成団体の予算に組むこともしていない。それは合併という非経常的な事務に関わる本件任意合併協議会参加について、議会における審議や住民投票による総意の結集を回避して地方自治本来の目的たる、民主的にして能率的な行政の確保を図ることを損ない、単に誘導措置の利益のみを追った節足の結果であることは明らかである。自治法1条は民主的で能率的な行政確保と自治体の健全な発達の保障を目的として掲げるが、原判決は、本件任意合併協議会に関する東松山市の運営を法条に照らし、そもそも妥当であったか否か野判断を逸している。

 

第3、まとめ

本訴は、被上告人他関係町村長が合併特例法の財政と身分の支援措置の期限に間に合わせるために設置した法に定めのない「事実上の協議会」の経費の支弁を予算に関する諸法規に従って適正に行っていないことの違法性か否かの判断、及び、地方自治の目的と自治体運営の原則的諸法規に従って民主的で効率的な行政の確保や、健全な地方公共団体の発達の保障が図られていないことの違法か否かについての判断を司法に求めたものである。 

原判決は、それらの事項に関する法令解釈及び事実認定について重大な誤りがあるので、上告受理決定がなされるべきである。

重大な誤りとして、上告人らが主張する論点は次の論点である。

1、市町村合併と広域行政の概念の明確な区別がなされていないこと、

2、地方公共団体とは別個独立の団体の事務として区分した予算の計上がなく予算議決による権限付与を欠落した執行行為を適法としていること、

3、その結果、法210条・211条、216条、232条、232条の3、同4の各法条違反に当たる財務行為を適法と認定するか若しくは判断を加えていないこと、

4、職員派遣に関し、地方公務員法35条及び職務専念免除条例への違法が問われ、給与支給に関し、法210条、211条、法216条への違反が問われるか適法と認定されるか、若しくは判断がくわえられていないこと、

5、自治体運営の原則的諸規定への違反に関しては、1の論点〔法215項に関連〕の他、216項、1条に関しては判断されていないこと、

 

これら論点について適正な解釈が下され、地方自治の目的、民主性と能率性の確保を図り得るような判断が判示されることを求める。